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東京地方裁判所 平成11年(ワ)14925号 判決 1999年12月07日

主文

一  被告は、原告に対し、金九〇〇万円及びこれに対する平成一一年六月一一日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、原告が被告に対し、ゴルフクラブの預託金の返還を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  被告は、ゴルフ場等の建設・経営及び管理を主たる目的とする株式会社である。

2  訴外百瀬眞一郎(以下「百瀬」という。)は、昭和六〇年四月三〇日、被告との間で、被告の経営する埼玉ゴルフクラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)について、左記内容の会員契約(以下「本件会員契約」といい、本件ゴルフクラブの会員権を「本件会員権」という。)を締結し、預託金として九〇〇万円を被告に預託し、会員資格保証金預り証が発行された。

会員権の種類   個人正会員

会員番号     P〇〇〇二号

預託金      九〇〇万円

預託金据置期間  証券発行の日の翌日から一〇年間

証券発行日    昭和六〇年四月三日

3  平成七年四月三日の経過により、本件会員契約から発生する預託金返還請求権の据置期間は満了した。

二  争点

1  原告は本件ゴルフクラブの会員権を取得したか。

2  原告がした本件ゴルフ会員権の売買契約は、次の理由で無効となるか。

(一) 原告の目的外の行為

(二) 弁護士法七三条違反

3  原告の本件会員権の譲受について、被告の理事会による承認が得られていなくとも、原告は被告に対し預託金返還請求権を行使することができるか。

三  争点に対する原告の主張

1  (一) 原告は、ゴルフ会員権取引業も営んでいる会社である。

(二) 本件会員権は、もと所有者であった百瀬が、株式会社住地ゴルフに売却し、同社が株式会社アルテックに売却したものであるところ、原告は、平成一一年六月四日、株式会社アルテックから、名義書換関係書類一式とともに買い受けた。

(三) 右関係書類中にある「ゴルフ会員権譲渡通知書」や「退会届」などは、前会員が当該会員権の最終購入者において、前会員名義をもって発信する権限をあらかじめ授権して交付したものである。

(四) 原告は、本件会員権については、預託金の返還を求めることとし、百瀬名義で退会届とゴルフ会員権譲渡通知書を被告宛てに発送するとともに、被告に対し、預託金の返還を請求した。

2  原告は、ゴルフ会員権の所有、売買、斡旋を業とすることを目的としている会社であるから、ゴルフ会員権を買取り、その預託金の返還を請求したからといってそれが目的外の行為になるわけはない。また、原告は、他人から報酬を得る目的でゴルフ会員権を取得したものでもなく、預託金返還請求訴訟を提起することを業としているものでもない。

3  ゴルフ会員権の内容は、ゴルフ場施設の優先的利用権、預託金返還請求権、年会費納入義務等から成り立っている債権債務を包含する法律上の地位である。そして、入会承認制度は、当該ゴルフクラブの会員としての不適格者を排除する目的で設けられているものであり、ゴルフ場の施設の優先的利用権は会員でなければ行使できないが、預託金返還請求権は単なる金銭債権にすぎないから、ゴルフクラブから入会の承認を受けていなくともこれを他の権利義務と分離して行使することができる。

四  争点に対する被告の主張

1  ゴルフ会員権の専門業者である原告の営業目的は、ゴルフ会員権の所有、売買、斡旋であり、本件のように預託金返還請求訴訟を提起して債権の回収を図ることを目的として預託金返還請求権のみを取得することは営業目的に含まれていないから、右売買行為は無効である。

2  原告は、これまでにも個人から退会後の預託金返還請求権のみを譲り受けたとして別件訴訟を提起していることや、本件においても被告に対し内容証明郵便をもって預託金の返還を請求し、その後一か月も経過しないうちに預託金返還訴訟を提起しているが、これらからすると原告が訴訟を提起して債権の回収を図ることを目的で本件会員権を譲り受けたものであることが明らかであるから、原告の右行為は弁護士法七三条に違反し、右預託金返還請求権を買い受ける行為は無効というべきである。

3  ゴルフ会員権の譲渡は、会員契約上の地位の移転であり、会員と譲受人との間においては当事者の合意のみによって会員契約上の地位が移転するが、被告に対して会員たる地位を取得するには、入会について被告の理事会の承認を得ることが必要である。したがって、右承認があるまでは、原告は被告に対し、預託金の返還を請求することはできない。

第三  証拠(省略)

第四  当裁判所の判断

一  争点1について

証拠(甲一の一、二、二ないし一〇、一四)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフ会員権はもと百瀬の所有するところであったが、同人はこれをゴルフ会員権譲渡通知書や退会届などの関係書類一式とともに、最終取得者において自己の名義でゴルフ会員権譲渡通知や退会届を被告宛に発送することを授権した上で、株式会社住地ゴルフに売却し、同会社はさらにこれを平成一一年六月四日に株式会社アルテックに売却し、同会社は同日これを原告に売却したものであること、原告は、同月七日、百瀬名義で退会届と債権譲渡通知書を被告宛に発送するとともに、被告に対し預託金の返還を請求し、右は同月一〇日に被告に配達されたことが認められる。

右事実によれば、原告は有効に本件会員権を買い受けたものであり、本件会員権の中に含まれる被告に対する預託金返還請求権も取得したものというべきである。

二  争点2について

1  被告は、原告が訴訟を提起して預託金の返還を受けることを目的として預託金返還請求権を譲り受けることは被告の目的外の行為である旨主張する。

しかしながら、原告が預託金返還請求権のみを譲り受けたものではなく、本件会員権を買い受けたものであることは前認定のとおりであるが、原告はゴルフ会員権の所有、売買、斡旋を目的としている会社であるから、仮に、預託金返還請求権を行使するために本件会員権を譲り受けたとしても、その行為をもって目的外の行為ということはできない。

2  次に、被告は、原告の本件預託金返還請求権の取得は、弁護士法七三条に違反する旨主張するので、その点につき検討する。

弁護士法七三条は「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。」と規定している。そして、本条の趣旨は、非弁護士が権利の譲渡を受けることにより、事実上他人に代わって訴訟活動を行うことによって生じる弊害を防止し、国民の法律生活に関する利益を保護しようというものである。

ところで、被告は、原告は訴訟にすることを目的として本件預託金返還請求権を取得したと主張し、その根拠として預託金返還請求権のみを譲り受けていることや、他にも訴訟で預託金の返還請求訴訟を提起したことがあることなどを挙げる。しかしながら、前認定のように、原告は本件会員権を譲り受けるとともに本件預託金返還請求権を取得しているのであって、預託金返還請求権のみを譲り受けているわけではないことに加え、原告は自らが取得した預託金返還請求権を行使しているのであって、他人に代わってそれを行使しているものではない。また、確かに乙一によれば、原告は、本件以外にも預託金返還訴訟を提起したことがあることが認められるが、ゴルフ会員権の所有、売買、斡旋を目的とする会社であるから、多数のゴルフ会員権を所有し、そのうち一部の会員権については退会届を提出して預託金の返還を受けたからといって不自然ではなく、ましてや、そのことから預託金返還訴訟を提起して預託金を回収することのみを目的としてゴルフ会員権を取得するのを業としているものとは到底認め難い。

以上のとおりであるから、被告の主張はいずれも理由がない。

三  争点3について

被告の会則(乙四)によれば、被告のゴルフクラブにおいては、会員となるためには被告の理事会の承認が必要であることが認められ、原告について入会の承認があったことを窺わせるに証拠はない。

しかしながら、ゴルフ会員権の法的性質は、ゴルフ場施設の優先利用権、預託金返還請求権、年会費納入義務等の債権債務を包含した会員契約における法律上の地位であると解されるところ、入会承認制度は、ゴルフクラブにとって不適格者を排除するためのものであるから、ゴルフ場施設の優先的利用権は会員として承認された者でなければ行使できないというべきであるが、会員権中の預託金返還請求権は、単なる金銭債権にすぎないから、入会の承認を得て会員とならなくとも、これを行使することができるものというべきである。

そして、前記のとおり、預託金の返還据置期間は経過しているものであり、債権譲渡通知書は被告に対してなされているものであるから、原告は、被告に対し、その返還を請求することができるものというべきである。

四  よって、原告の本件請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、仮執行宣言につき同法二五九条を適用して、主文のとおり判決する。

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